食べる喜びが笑顔を運んでくる ~看護実習体験記~

2009.06.24 16:00|看護実習&演習
 向川さん
 私は在宅ケアヘの移行期にある74歳・男性の佐藤さん(仮名)という患者さんを受け持ちました。佐藤さんは大腸炎のために入院となりましたが、実は7年前に脳梗塞を発症し、右片麻痺という障害を抱えている方でした。
 受け持ち始めたころ、日常生活動作(ADL)の全般に介助を必要とし、食事のときは奥さんが介助していました。入院当初から続いていた下痢症状は改善されてきており、後は退院を待つばかりという状態でした。
 佐藤さんの奥さんは、ご自分の体調が悪いときでも、自宅から病院まで、毎日20分かけて歩いて通っていました。そんな奥さんの介護負担を少しでも軽減したいと思い、奥さんの介肋がなくても何かできることがあるのではないかと考えてみました。奥さんの負担軽減と、退院後に佐藤さんが寝たきりにならないようにADLの拡大を図る看護計画を立てました。

左手でも食べられるように
 食事動作の自立を目指し、まず佐藤さん自身で「スプーンを持つ」ことを目標にしました。スプーンの大きさ・形・持ち方を考えることで、スプーンを持つこと自体はできるようになりました。しかし、利き手に麻蝉があり、左手を常時使うようにしたため、スプーンを食器の中に入れて食べ物をすくうことは、容易ではありませんでした。
 すくおうとしても落としてしまったり、すくうことができても□まで運ぶことができなかったりと、見ている私にもそのたいへんさが伝わりました。佐藤さんは、なかなかすくうことができない自分に対して苛立ち、もどかしさを感じているようでした。

 「食べたいのに食べられない!」

そんな佐藤さんの心の声が聴こえた気がしました。

 食べさせてもらうことは簡単なことです。しかし、好きな物を選び、自分のペースで、自分の力で、口に入れ食べることの喜びをもう一度知ってもらいたかったのです。
 私は、すくいやすい皿の位置・角度を考え、思うように食べられなくても繰り返し行えば必ず上達することを説明し、励ましながら訓練を続けました。
 その結果、食べこぼしは多少あっても、深い皿のものは自力摂取できるようになったのです。
 自力摂取ができないと思い込んでいた奥さんは「自分で食べられるようになったのね!」と驚き、同時に笑顔で喜んでいました。また、佐藤さんにも笑顔がみられ、食事を心から楽しんでいるようでした。このときの佐藤さんと奥さんは、今までで一番の笑顔をしており、輝いて見えました。その姿を見て、私もうれしくなりました。

障害からの自立を目指して

 日常生活のなかで当たり前の、定期的なこととして繰り返されている食事が、何らかの障害で普通に摂取できなくなることは大きな苦痛となります。逆に、普通に食事ができなかった方が、訓練や工夫によって少しでも自分自身で食事ができるようになれば、このうえない喜びとなり、それが自立への希望や勇気にもつながるということを、佐藤さん、そして奥さんとのかかわりを通して学ぶことができました。
 これらの貴重な体験を忘れず、障害を抱えながらもその入らしく生活するためには何か必要であるかを考え、少しでも患者さん自身でできることを見つけ出し、患者さんの喜びや希望につながる看護ができるように頑張っていきたいと思います。

 ※当時八看生だった向川さんが、看護実習にて体験した出会いを 「プチナース:照林社刊」 にてご紹介いただきました記事です。


テーマ:看護の学校
ジャンル:学校・教育

タグ:在宅ケア 自立 ADL

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